南河内に関する書籍を紹介する「南河内ブックレビュー」。第7弾は月刊コミックバンチで連載されている灰原 薬さんの「応天の門」です。「応天の門」は第20回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作にも選ばれています。
主要登場人物
・菅原道真 多くの学者を輩出する菅原家の子息。優秀な文章生だが、あまり人付き合いを好まず、自宅で書物を読みふけっている。
・在原業平 平城天皇の孫にして阿保親王の五男。都に名を馳せる歌人にして、無類の女好き。警察に相当する検非違使を率いて都の治安を預かる。
・紀長谷雄 菅原道真の級友。女好きで博打好きなトラブルメーカー。
・藤原良房 清和天皇の外祖父として、宮中で権勢を振るう。
・藤原基経 藤原良房の養子となり良房を支える、冷徹な策謀家。
・伴善男 大納言として、一族では異例の出世を遂げる。反藤原派の筆頭として、藤原良房や基経と度々対立する。菅原道真とは遠戚にあたる。
応天の門と南河内との関わり
舞台は平安時代の京。朝廷では権力拡大を狙う藤原氏と、伴氏をはじめとする反藤原勢力が対立。権力争いをキッカケに巻き起こる、事件や謎を菅原道真と在原業平が解決するという平安サスペンス。
菅原道真と在原業平は、南河内に関わりを持つ人物です。菅原道真は古墳や埴輪の設計開発集団である「土師氏」の末裔。百舌鳥古市古墳群の多くの古墳も土師氏が関わっていたと考えられています。
土師寺(現在の道明寺天満宮と道明寺)は土師氏が建立したもので、現在の道明寺天満宮は菅原道真を祭る天満宮でも、特に有名な神社として知られています。
在原業平の祖父は平城天皇、父は阿呆親王。阿保親王の母は、葛井寺を建立した葛井氏かで、阿保親王は葛井寺の再建にも関わっています。葛井寺の寺伝によれば在原業平も晩年はこの地ですごし、諸堂の造営に関わったと言われています。
ストーリー
内容を少し強引に例えると「現代版一休さん」。もちろん青年誌なので、一休さんのようにほのぼのとはしていませんが、役割としては
菅原道真 = 一休さん
在原業平 = 蜷川新右エ門
という感じでしょうか。
では、将軍様には誰に当たるのかと言うと、藤原良房と藤原基経がそれにあたりそうです。
藤原良房、基経といってもあまりなじみの無い人物ですが、史実では、藤原北家の当主として絶大な権力を有していました。
史実では、基経の息子は藤原時平で、後に菅原道真の強力なライバルとして道真の前に立ちはだかります。現在、読んだ時点では登場はしていません。
物語では菅原道真は12歳なので、在原業平はおよそ35歳。書物を読んでいたい道真は、業平と距離を保とうとします。しかし業平が困っていると結局手伝ってしまうというツンデレタイプ。
権力と関わりを避けながらも、事件や謎を次々に解決していくうちに、権力抗争に関わっていく道真。高貴な血筋ながらも、藤原氏の権力に屈する現状に一矢報いたい在原業平。タイプも世代も異なる2人のやりとりが、物語の面白さの1つです。
タイトルにある「応天の門」とは朝廷内での政務・重要な儀式を行う「朝堂院」へ通じる応天門をさします。まだ身分が低く子供の道真ですが、この門の奥へ入るときが来るのか・・・
本作の監修には東京大学史料編纂所の本郷和人氏が担当しています。単行本では平安時代の文化・風俗に関する解説文を書いてますので、分からない用語があっても理解できます。
南河内に関わる2人が主人公という事で、気になるシリーズですが、内容も非常に面白くお勧めの一冊です。現段階で11巻まで発売中。この本を読めば、菅原道真や在原業平がグッと身近に感じることができるのではないでしょうか。